先日、「羽ばたけ!若きアーティストたち」という関西の若手音楽家支援のコンサートを聴きに行きました。声楽、ヴァイオリン、ピアノの若き音楽家たちの舞台です。
会場が暗くなり、ドレス姿の女性が2人出てきます。ソプラノの歌手と伴奏のピアニストの方です。
まず「1分間スピーチ」があって、それから演奏という流れでしたが、300人ほどの観客に向かってしゃべり、ソロで歌うなんてすごい度胸だなあと思いました。そして、会場に語りかけるような美しい歌声が響きました。
それから、8つのソロまたはアンサンブルの演奏の舞台が繰り広げられました。
ラヴェル『夜のガスパール』より「スカルボ」、サン=サーンス(リスト編曲)「死の舞踏」、サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」など、超絶技巧の曲も拝聴できました。
音楽高校の先生をなさっている方もいらっしゃいました。お忙しい中、時間をどうにか捻出してこの場に立っているのだと思うと演奏後の拍手に力がこもりました。
どの出演者も、地道な練習が欠かせないスケールやトレモロが美しく、勤勉さを感じました。日々研鑽を積み、音楽の道をひた走っている若き音楽家たちはまぶしく見えました。
私は、もう若くはないですが、長生きする予定なのでまだまだ時間はあるはず。勤勉に生きよう、そして、美しい演奏ができる指導者になろう、と思いました。
Hちゃんは、同音連打〔同じ高さの音が続くところ〕を味があるアーティキュレーション〔音の切り方〕で弾きます。弦楽器のスピッカート〔弓を弦の上で弾ませてポンッポンッと弾く奏法〕のようなノン・レガート。
明るくて晴れやかな曲にはぴったりの弾き方なので、そんな曲に同音連打があったら、わたしも、Hちゃんのまねをして弾いています。
ただ、やさしい子守歌のような曲では、ちょっとよろしくありません。
ですから、「ララルー」〔ディズニーのアニメに用いられた子守歌〕の練習中には、鍵盤から指を離さないように、手の甲の傾きも使って、などと注意をしました。そうして、同音連打のところも含めて、美しいレガートで弾けるようになったのですが・・・
初見演奏の練習問題を弾くHちゃん。なんというか無表情。音価と音高〔音の長さと高さ〕は合っているけど、昔の電話の保留音のような演奏です。
残念に思って、「初見の問題でもきれいに弾けたらいいのに」とこぼしたら、なんと、Hちゃん、すぐにきれいに弾けました!
こんな風に弾いたらいいよ、というアドバイスがなくても、自分でどうしたら良いか考えて演奏することができるようになったのだなあ、と成長を感じました。
鍵盤楽器の演奏というのは、あちらに気を配り、こちらに気を配り、同時進行でいろいろなことに注意を払わなければなりません。音高と音価だけでなく、拍子感、ハーモニー感、フレーズ感、リズム感、強弱、アーティキュレーション、音のバランスに表情。
できなかったことを一つ一つ当たり前にできることにしていく。その積み重ねが、多方面に注意を払うことを可能にし、良い演奏につながるのだと思います。
Hちゃんは、レガート奏を美しく弾くことが当たり前になりつつあるようです。これからの成長も後押しできるように、良い演奏にするためのポイントを見つけて伝えていこうと思います。
Tさんに「強拍とアクセントはどちらをより強く弾くのですか?」と質問されました。
Tさんは、ちょうどチャイコフスキーの「ワルツ」(『こどものアルバム』収録)に取り掛かり始めたところで、その冒頭の強弱のつけ方で悩んだそう。
スラーの終わりの音は弱く、と習ったのに強拍で、一方、アクセントの付いた音は強く弾くのに弱拍になっている。さて、どうしたものか、と。
そこで、拍子とアクセントのお話をしました。
まず、拍子の話。曲には2つのタイプがあります。1つ目は手拍子を打ちたくなるタイプ、もう一つは手拍子を打ったら少々お邪魔になってしまうタイプです。
前者は、例えば「ラデツキー行進曲」。伴奏の拍子感とメロディの抑揚がそろっている曲です。この曲は、強拍と弱拍をしっかり意識すると、キビキビ前進するような演奏ができます。
そして、後者が今回のケース。伴奏の拍子感とメロディの抑揚が2つの波のように独立しながら調和しています。伴奏の強拍と弱拍を控えめな強弱で表現し、拍子感をキープ。その小さな波に、2~5小節目のメロディを大きな波のように乗せます。
次に、アクセントの話。アクセントの意味は「その音を目立たせて」なので、強く弾くだけではありません。聴いている人が次にこう来るだろうと予想しているよりも弱い音だったり、少し遅れて鳴らしたり、少し長く伸ばしたり、普通ではない印象をほんのり与えると良いと思います。
たとえば、上の楽譜の3つ目のアクセント(青〇のところ)は、クレッシェンドの先に予想されるよりも小さな音で、かつ、少しだけ長く弾くと甘い響きになって素敵です。
というわけで質問の答えは、強拍とアクセントは強く弾かないこともあるので、ケース・バイ・ケース、ということでした。